2010年06月09日

2010年・全国の新聞社説・論説における憲法論調の主な特徴

2010年・全国の新聞社説・論説における憲法論調の主な特徴


桂 敬一(マスコミ九条の会呼びかけ人)


今年最大の着眼点は「普天間」「日米安保」

 今年、2010年のこの憲法論調分析(結果は別表参照)は、昨夏の総選挙で誕生した民主党政権の下では、初めてのものだ。9条改憲を党是として標榜してきた自民党政権と比べ、民主党連合政権は改憲に関する方針を明確にしていない。これに対して新聞全体の論調動向はどのようなものとなるのか、気になった。

 連立政権の憲法政策が曖昧なため、各紙の憲法論調の護憲性・改憲性の判断に当たっては、つぎの2点を主な拠りどころとした。第1は、現行9条の規定順守を促す文言や、それを生かせとするメッセージの有無だ。ただ、平和的生存権(25条)の重視を謳うものなども、9条護憲の範疇に含めた。第2に、すでに「普天間問題」が重要な争点として浮上しており、これに関連して日米安保の見直しを求める声も大きくなっていたので、これらの問題への触れ方を重視した。自民党時代の日米合意どおりの沖縄県内の基地の移設は、在日米軍再編・日米軍事一体化の方向を強化し、既成事実化するので、日本の防衛を主眼とする安保を変質させ、気付かぬ間にアメリカとの集団的自衛権を成立させ、解釈改憲の幅を後戻りできないほど広げるおそれがある。そこで、そうした方向を主導するか黙認する主張は9条改憲に、これに反対する主張は護憲に、それぞれ区分した。

 調査結果は、これまでとは異なる興味深い傾向を示すが、その紹介の前に、改憲の是非やその内容の可否が新聞のうえで大きな問題となるに至った、およそ10年間の政治情勢の変化を、あらかじめ振り返り、概観しておきたい。

9条改憲の危機を生み出した小泉政権時代

 01年4月から06年9月までつづいた小泉内閣は、自民党の結党50年を迎えた05年、党是とする改憲を、全文書き換えによる自主憲法制定の方法で実施するために、その草案を作成、発表した。それは9条に関しては、第1項の戦争放棄の規定を残すが、第2項の戦力不保持・交戦権否定は変更、自主防衛の戦力保持と必要な交戦権の行使は可能、とする規定を盛り込むものだった。また、01年に発生した「9・11」事件に伴い、ブッシュ米大統領が「テロとの戦争」に踏み切ると、小泉内閣はその方針を全面支持、米軍とこれに同調する多国籍軍によるアフガン・イラク戦争支援のために、インド洋への海上自衛隊(外国軍艦船への燃料補給)の派遣、イラク現地への陸上自衛隊(住民生活支援・治安維持)・航空自衛隊(戦闘員・物資の輸送)の派遣を行い、憲法が禁じる集団的自衛権の行使に抵触する疑いのある海外での軍事行動に踏み出した。

 こうした事態は、国内に大きな改憲論議を、当然巻き起こす結果となった。ところが、それ以前、91年・第1次湾岸戦争後の自衛隊の海外出動(戦後の掃海活動)、カンボジア、シリア・ゴラン高原、東チモールなどへの国連PKO活動への自衛隊への参加、94年・村山内閣による「自衛隊合憲・日米安保堅持」方針の明示(社会党の政策転換)などの動きが生じるのに連れて、読売「憲法改正試案」提言(94年)など、メディアの世界でも、9条を中心に改憲の議論が起きるようになっており、小泉政権下では、現実の情勢変化に合わせて憲法を変えるべきではないか、とする声が一般世論にも現れるようになっていた。その傾向は、新聞各社の世論調査において、憲法を「変えるべきか」「変えてもいいか」とする総論的な問いに対して、かなり多くの人が肯定的な回答を行うようになっていく動きのなかにみて取れた。

小泉後継政権の改憲画策と反攻する護憲勢力

 しかし、90年代から21世紀初頭にかけての10数年間は、バブル崩壊・長引く経済不況、地球温暖化・環境悪化、人権問題の複雑化などの問題に迫られ、生存権の重視、新たな人権として環境権・プライバシー権を位置づけること、なども提唱されるようになっており、総論的な改憲賛成の回答には、そうした考え方を憲法に反映させよ、との意見も含まれる部分が少なからず存在した。ただ、9条に限ってみた場合は、改憲賛成の回答者でも、「変えるべきでない」「今のままでよい」と答える人が安定して多く、それが急激に少数になることはなかった。このような情勢のなか、小泉政権によるイラク戦争支援、有事法制定(03年・武力攻撃事態対処関連3法成立)、改憲日程始動は、一般世論をも急速に9条「改正」に転換させていくのではないか、とする懸念を呼び起こした。04年、加藤周一さんなど9人の文化人が「九条の会」を発足させた。

 06年、小泉政権を受け継いだ安倍政権は、その年に教育基本法「改正」、翌年は防衛省昇格・憲法改正国民投票法制定を強行、急速に明文改憲の路線を突っ走るようすをみせた。憲法公布60周年を迎えた07年、全国の新聞各社は、ある種緊張感をみなぎらせた。改憲派はここぞとばかりに期待感を示し、反対に護憲派は危機感を募らせた。力の入ったそれらの論調は9条を中心にみたとき、部数比で61.9%が護憲、35.2%が改憲という結果となった(区分不明2.9%)。全国紙では朝日・毎日が護憲、読売・日経・産経が改憲だった。安倍首相辞任のあとを受けた福田政権下、08年の調査結果は、護憲62.9%・改憲37.1%、自民政権最後の麻生内閣のとき、09年は護憲64.4%・改憲35.6%。全体的にみて、末期の自民政権への失望も手伝ってか、微増ながら護憲派メディアが堅調に読者の支持を増やしてきた、といえる。その背景には、地方紙における護憲論調の健闘が認められた。

民主党連立政権実現と意外に低調な9条護憲論調

 そして今回、民主党連立政権下の調査結果も、護憲60.0%・改憲37.6%・不明2.4%と、大勢においては前3回とほぼ同様の傾向がみられることとなったが、護憲派メディアが前回より若干数値を減らし、相対的に改憲派メディアが増えたことが、やはり気になる。その原因としてはまず、護憲派メディアが前年は47社50紙あったのに、今年は38社41紙と、9社も減ったことが挙げられる。改憲派メディアは前年が6社7紙、今年が9社10紙、相対比はこちらのほうが大きくなる。この背景には、有意の社説・論説を掲載していた新聞数が、前年は53社57紙だったのに、今年はようやく50社54紙と、総数において減った事情が存在する。大きな民意が動き、非自民政権が実現したのだから、こういうときこそ憲法社説も賑わっていいはずなのに、実際にはそうはならなかったのだ。憲法関連の社説・論説を、昨年は掲載していたのに今年載せなかった新聞は11社にのぼる。そのうち護憲派は9社、改憲派は2社だ(別表の末尾注参照)。

 この沈滞はなぜ生じたのか。評者には、各紙が「普天間問題」を真正面から憲法的な課題として論ずることを避けたせいではないか、と思える。民主党連立政権は、沖縄・普天間の米軍基地の「県外・国外」移設の約束とともに誕生した。政権維持の可能性は、この約束を履行するか、あるいはそのことに拘泥し、日米の同盟関係を危機にさらすかの、岐路に立たされていた。「県外・国外」移設が実現できれば、沖縄の米軍基地と日米安保体制を縮小していく大きな見通しが開け、9条護憲の基盤が固められる。反対に普天間が沖縄県内の別の地域に移設され、新鋭米軍基地にかたちを変えれば、これによる解釈改憲の拡大はやがて9条の足元を掘り崩すことになる。3月以降、普天間問題が鳩山内閣の抱える最大の難題となっており、5月に入るやいなやメディアは、首相の4日・沖縄訪問の予告報道とともに、政府案は自民党がアメリカと合意した名護・辺野古移設案に戻る、とする観測を報じていた。こうした情勢の下、評者は、「普天間」と「安保」に言及する社説・論説が多くなるのではないか、と予想した。だが、それは裏切られた。

資料10年・全国各新聞の社説・論説欄にみる改憲論調.pdf

9条護憲の朝日、健闘する地方紙はどこにいったのか

 もちろんそうした社説・論説も少なくはなかった。しかし、より多くの新聞が「普天間問題」を、鳩山内閣の政権担当能力の有無の問題として論じる傾向を強くみせ、憲法的な議論の文脈に置いて論じる新聞は、少なかったのが実態だ。そうした傾向を極端なかたちでみせたのが朝日だ。朝日の社説には実は、言葉としての「普天間」も「安保」も、まったく出てこない。民意によって出現した鳩山政権は民意とすれ違ったことしかしていない。市民の生活に基づく細かな要求に耳を傾け、失われた民意を取り戻すことこそ、憲法に適うものだ、と説く大論文だ。9条を中心とした護憲論とはいえず、「護憲的論憲」に区分、その枠内で護憲派メディアに算入はしたが、評者の手がけたこれまでの4回の調査のなかで、初めてのことだ。前回まで3回はつねに9条「護憲」の区分に朝日は入っていた。朝日は民主党政権誕生に一番肩入れしたにもかかわらず、政権発足以来、自民党合意どおりの普天間移設をやれと、一貫して鳩山内閣に促してきたことが、思い出される。

 これまでの9条護憲論は、地方紙が足並みを揃え、読者の支持を得て堅塁を維持してきた観が強かった。だが今回、鳩山内閣の足どりがおかしくなり、内閣支持率が下がりつづけるなか、地方紙の多くがそちらに気を取られ、あえて「普天間「日米安保」に言及、9条護憲の議論の展開には踏み込めない、あるいは踏み込まないままに終わった感じがするのも、今回の特徴の一つだ。憲法社説・論説そのものを載せなかった地方紙の多かったことも、その現れではなかったか。また、9条「護憲」に区分できたところも、建前的に9条護持のメッセージを認めた論考が多く、目前の緊急課題として「普天間」「安保」を取り上げ、9条を生かして今たたかう、とするような迫力は概して弱かった。民主党政権発足後、核廃絶運動の前進・NPT再検討会議、沖縄「密約」・核密約の問題化など、「普天間」「安保」と結合して議論ができる題材もたくさん出現していた。だが、そうした議論を主体的に推進する意欲や力量の不足に、もう一つ飽き足らないものを感じさせられた。

 そのなかで、沖縄タイムス、琉球新報、南海日日、宮古毎日のいわば現場地元紙のほか、中日(東京・北陸中日)、北海道、河北新報などの地方紙は従前どおりの健闘ぶりを示していた。また、神奈川・長崎・沖縄タイムスの3紙は、地元に米軍基地を抱える共通の条件を生かし、60年安保改定50年にちなむ共同企画「安保改定50年―米軍基地の現場から」を、通年で実施しており、独自の存在感を発揮していた。全国紙では、毎日が「論憲」を促す趣旨で、「普天間」「安保」の問題を真正面から取り上げ、日米安保をこそ根本から再検討すべきだとする議論を展開し、目を引いたが、生き生きした9条護憲の議論と解釈することができた。地方紙のなかで、ちょっとした文言・表現の有無で、9条「護憲的論憲」と9条「改憲的論憲」に振り分けられてしまう論調があるのが、気になった。共同配信の同じ論説資料を利用したと類推できるが(別表中、*印の付いた新聞)、沖縄、安保、平和、9条などの語や、それらに関した文言が含まれていれば、前者に区分できるが、それらにまったく言及する部分がないと、後者に分類するしかないのだ。両義性の強い共同配信資料に疑問も湧くが、自分の言葉でものをいわない新聞も、納得できない。

憲法状況の歴史的転換促す現在の課題に取り組め

 他方、改憲派の新聞はどうか。別表のとおり、改憲派全国紙3紙はこれまでどおり健在だ。これら3紙も、「普天間」「安保」をストレートに対象とした議論をするより、支持率を急速に下落させつつある鳩山内閣をもろに攻撃、改憲の気運を一挙に強めようとする方策をとっているところが、興味深かった。読売と日経は、安倍政権時代に国会を通った憲法改正国民投票法が5月18日に同法の規定によって施行となる点を重視し、この間に衆参両院に憲法審査会を設置しなかった政府の不作為の責任を批判、施行を機に審査会を設置し、憲法論議の停滞を打破、国民投票実施の気運を醸成せよ、とする主張を掲げた。直接「普天間」「安保」に触れるところはほとんどないが、目指すところが9条改憲であることは、容易に理解できる。産経はこの点、中国の軍事的脅威の増大を強調、日米同盟の強化、9条の制約を除く必要を、あからさまに主張していた。

 警戒しなければいけないと思えたのは、制定済みの国民投票法が長いあいだ放置され、この法が規定する憲法審査会が設置されてこなかったことに関して、新聞によっては、多数の付帯決議の処理のめどが立たないうちに実質的な施行を急ぐべきでないなど、慎重な対応を求める主張を行うところもあったが、9条護憲・改憲の別なく、かなりの新聞が、決まったもなのだから放っておくべきではない―それは政治の怠慢だ、とするような議論に容易に乗せられかねない雰囲気を漂わせていた点だ。危ういかな、と思わせられた。また、今回は、裁判員制度の実施、冤罪問題、外国人参地方政権・外国人在住者の居住受け入れなど、憲法的に重視すべき事件・問題に直面する状況に置かれていた。その結果、憲法記念日の社説・論説ではあるが、これらを個別に取り扱い、その議論だけに終始するものも、二、三認められた。それはそれで意義のあることだが、目前の「普天間」「安保」の解決いかんによっては、戦後初めて憲法的状況も一変するような歴史的転換が生じる可能性もある時期に、果たしてそれでいいのだろうか、とする疑問も抱かせられた。

 ぼんやりしていては、歴史の進歩を主導するどころか、それから取り残されたり、下手をすると、歴史の退行に手を貸すことになりはしないか。今年5月3日、在京6紙をみているうちに、日経を除く5紙に、「5月3日は創価学会の日」とする全面カラー広告が掲載されているのを発見、驚いた。そして、地方紙の同日の社説・論説を調べているうちに、まったく同じ広告がこれら地方の主要36紙にも載っているのを目にし、声を失った。異変だ。かつてないことが起こった。初めは大したことはないと思ってやったことかもしれない。だが、みんな同じようにやることになると、それに逆らうことは、もうできなくなるのではないか。新聞はそうした過誤をかつて経験したのではなかったか。
(終わり)
posted by マスコミ9条の会 at 06:10| Comment(0) | 憲法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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